ちょっと前の話になるが、11月3日に全日本剣道選手権が開催された。中学・高校と6年間、剣道に打ち込んだ遠藤(弟)としては見逃せないイベントの一つである。
でもってその翌日、友人のSよりメール。前日の全日本剣道について、優勝者はもとよりベスト8全員が警察官だったことに触れ、ややご不満の様子。「彼らの本業は警察ではなく剣道のように思えるが、私は税金で剣道家を雇いたくはないですね」といった趣旨。ははあ、さもありなんと思わずにやり。ディベートとクレームなら大抵の相手には負けない、いかにもSらしいメールである。現在、事業仕分けと称する公開吊るし上げ大会が開催されているが、仕分け人にSを指名したら目の覚めるような大活躍をするであろう。
まあ、Sの指摘ももっともである。今回の全日本剣道も、60数名の本戦出場者の内、警察関係者が50名以上。ほぼ警察官による独占と言っていい。警官にとって必須とされるもう一つの種目・柔道においては、実業団や学生の強豪が活躍しているのに比べ、剣道の警察専制ぶりは歴然としている。これでは「税金もらって剣道ばっかりやってる」と言われても仕方ないかもしれない。
しかしだ。まあぶっちゃけ僕は警察官が基本的に嫌いで、とりわけ過去に新宿で職質をくらった時の不愉快さは今思い出してもはらわた煮えくり返るのだが、こと剣道に関しては多少彼らを擁護したいところである。半ばプロと化している他の社会人スポーツ選手と違い、警察剣道は基本的に勤務時間外に稽古をしている(と思う)。出勤前の朝稽古、休憩時間の昼稽古、勤務終了後の夜稽古である。そもそも剣道で収入を得ている、いわば剣道のプロなど、果たして全国に何人いるか。これだけアマチュアリズムに徹した(言い換えれば、まるでカネにならない)スポーツも今時珍しい。
先日『情熱大陸』なるテレビ番組で、世界剣道選手権に優勝した日本代表チームのキャプテン(もちろん警察官)を特集していた。それほどのトップ選手でも、剣道連盟から出るのは、せいぜい往復の旅費と宿泊費程度。遠征先での食事は、地元の安食堂である。使う道具一つとっても、大抵のスポーツではそこそこのプレイヤーならメーカーから契約の話があるが、僕の知る限り剣道では聞いたことがない。全日本はもちろん、世界選手権を制覇する“剣聖”が、新しい防具を買いたいけれど、妻にどうやって切り出そうかと悩んでいるのである。剣道やって給料もらってる人なんてのは、「助教」といって、警察で剣道の指導を専門にする人達くらいなものであろう。助教も、基本的には機動隊で相当の働きをしなければなれない筈である。バブルの頃の実業団運動部のようなわけにはいくまい。
いずれにせよ、剣道をやる人間のいわゆるエリートコースが警察に集約しているのは事実である。中学・高校と全国大会で活躍し、大学で学生選手権、そして警察に入って全国警察大会、全日本、世界選手権というのが一つの頂点ではある。スポーツニュースでは取り上げてもくれないけどね。