春だというのに冷たい雨。「花冷え」だの「菜種梅雨(なたねづゆ)」だのと、昔の人は上手いことを言ったものである。こんな日に休みが割り振られた時は、テレビの前でごろごろしながら本を読むに限る。
『アルコール問答』(なだいなだ・岩波新書)。アルコール依存症患者との対話形式をとりつつ、いわゆる“アル中”の歴史的背景や社会的要因、その他もろもろについて非常に読みやすく書かれた好著。御承知のようにお酒が大好きな遠藤(弟)であるからして、アルコール依存症になる可能性は決して低くはない。よって、この手の本は読むようにしている。アル中というやつが、いわゆる意志の弱さや責任感の欠如といった、道徳的問題ではなく、やはり精神疾患の一つなのだと、あらためて思う。とはいえ、アル中にせよ、ギャンブル依存症にせよ、本格的に発症する前の段階においては、自制心の及ぶべき範囲ではないかとも感じる。いずれにせよ気をつけねばなるまい。
『薬局通』(唐沢俊一・ハヤカワ文庫)。あの“トリビアの泉”のスーパーバイザー、唐沢(兄)の処女作品(筒井康隆風に言えば童貞作品)を文庫化したもの。医師と薬剤師の間に流れる微妙なコンプレックスや、パチンコホール並みに規制にしばられている薬局の現状、あるいは思い出の傑作クスリCM等々、まさに唐沢流トリビアリズムの原点。細かい知識が、骨太の資料によって支えられているので、重箱の隅をつつきながら、実はお腹いっぱいになっているという、非常に読み甲斐のある一冊。
『将棋の子』(大崎善生・講談社文庫)。将棋界の“虎の穴”、奨励会に入門し、挫折を味わってゆく少年達にスポットを当てたドキュメント。正直、やや冗漫でいらいらしながら読み進んだが、内容的には読み応えあり。だいたい将棋や囲碁の強い人間というのがそもそも僕の理解をはるか超越した存在である。中平邦彦は、その著書『棋士・その世界』の中で、「棋士は天才である」と書いているが、全くその通りなのだろう。
『破船』(吉村昭・新潮文庫)。静かで、しかも胸にずんとくる小説。一応舞台は江戸時代の一寒村であろうか。海沿いの貧しい村では、嵐の夜に浜辺で火を焚き、迷い舟を座礁させて積み荷を奪い取る風習が、辛抱強く続いている(もちろん生き残りの船員は皆殺しである)。“お船様”と呼ばれる獲物がかかった年は、豊作の年のごとき喜びが村を覆う…といった、何とも陰惨な営みが、吉村昭のドキュメンタリーのような芯のある文体で淡々と語られる。それが、いっそう怖さを感じさせるのである。昨年に引き続き、お船様をおびき寄せた村は喜びに湧くが、その船は恐るべき災厄をもたらす船であった、というのがストーリィ。
とにかく、話を盛り上げようともせず、また意外なオチをつけようとするでもなく、まるで事実をそのまま書き綴ったかのような文体が怖い。具体的な場所や、時代背景を感じさせないぶん、この設定をSFにして、近未来の日本あるいは宇宙のとある惑星にしても、じゅうぶん様々な想像の余地があるあたり、非常によくできた作品。いや、話自体は地味なんだけどね。
『イキな紳士のしゃれたY談集〜夜の話題に強くなる〜』(吉行淳之介ほか・KKベストセラーズ)。ブックオフの100円コーナーで見つけ、思わず購入。何しろ1970年発行である。藤本義一・宍戸錠・青島幸男・ケーシー高峰・奈良林祥・筒井康隆・コロムビアトップ…とまあ、当時の有名人らが、それぞれの(まあ大半はゴーストライターであろうが)とっときのワイ談を披露する一冊である。曰く「性感地帯ご案内」「レディに春画を見せるコツ」「摩羅博士のヴァギナ国探検記」「ノー・タッチでノックダウン」とまあ、苦笑せざるを得ないお話がずらずら。その合間に挟まれたコラムのタイトルが「コント・エロチカ」。実に全く70年代テイストを胸いっぱい満喫できる本と言えよう。